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従業員の権利意識の高まりと権利主張への対応は労使間の権利義務の確認から始めなさい

 
権利を主張する男性の写真
この記事を書いている人 - WRITER -
経営コンサルタント(中小企業診断士)、人事・労務コンサルタント(社会保険労務士)。福岡生まれの熊本育ち。性格は典型的な「肥後もっこす」。 「ヒト」と「組織」の問題解決(人材教育・育成や組織変革)を専門とする。 また、商社時代に培った経験から財務・会計にも強く、人事面のみならず財務面からの経営アドバイスも行う。 他にも社会保険労務士、中小企業診断士や行政書士など難関国家資格を含む20個の資格にフルタイムで働きながら1発合格した経験を生かし、資格取得アドバイザーとしても活動中。
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本記事は、使用者(企業・経営者)と従業員(労働者)間の「権利と義務」をテーマに書いています。
読む人によっては、この記事に書いた「権利と義務」の考え方とは、異なる考え方あると思います。
当然ながら、本記事は他者に自分の考えを押し付けるものではありませんので「受け入れる」必要はなく、異見の一つとして「受け止めて」頂ければ幸甚です。

権利には義務が伴うというけれど…

最近は、従業員の権利意識が高まり、権利の主張が激しいという声がよく聞こえてきます。

「権利」を用いた言葉と言えば、「権利には義務が伴う」や「権利を主張する前に義務を果たせ」といったものを、皆さんも思い浮かべるのではないでしょうか?

また、これに倣うかのように、経営者の皆さんも日頃から従業員に対して「権利ばかり主張していないで、自分たちの義務を果たしてから(権利を)主張しろ!」と声を大にして言っているのではないでしょうか?

さて、まずはこの「権利には義務が伴う」という言葉を考えてみたいと思います。

一般に「義務を果たさなければ、権利を主張できない」という意味だと思っている方が多いと思います。

例えば、私人間同士(民法)の双務契約であれば、債権債務や同時履行の抗弁権といった考え方からすれば、「義務を果たさなければ、権利を主張できない」という意味は概ね正しいのかと思います。
例えば、売買契約であれば、お金を払うという義務を履行しなければ、商品を受け取るという権利を主張できないといった具合です(イメージとしてはコンビニで商品を買う場面)。

ですが、これらの権利義務の考えが全てではなく、日本国憲法で定める基本的人権や法律の定めなど、「義務を果たすことなく、当然に権利を主張できるものもある」ということも頭に入れておかなければなりません。

このように、単純に「権利と義務」といっても考え方によって違いがありますので、従業員の権利意識の高まりと権利の主張への対応には労使間の「権利と義務」をお互いに確認するところから始める必要がありそうです。

従業員の権利主張の内容は何?

「従業員の権利の主張」を経営者が嫌がる理由は、労使双方の言い分が縺れると労使間のトラブルに発展したり、従業員一個人の主張が他の従業員にも飛び火し会社全体を巻き込んだ大問題になるといったことを懸念しているのだと思います。

では、従業員はどういった類の権利の主張をしているのでしょうか

「相談、不満=権利の主張」という訳ではありませんが、ある程度客観的なデータを元に考えたいので、以前取り上げた個別労働紛争解決制度に寄せられた相談内容を取り上げてみたいと思います。

平成30年度(2018年度)の個別労働紛争解決制度(総合労働相談、助言・指導、あっせんの3つの方法がある)の利用のうち、「あっせん」の申請における相談内容を見ると以下のようになっています。
ちなみに、「あっせん申請」を取り上げた理由は、行政への相談といったレベルに留まらず、実際に労使間で紛争(何らかの意見の食い違いが起こっている段階)が起きており、あっせんを利用してでも解決を図りたいという使用者・労働者の強い(権利の)主張が根底にあると推測されるからです。

【あっせん申請内容別】
【1位】いじめ ・嫌がらせ(33.0%)
【2位】解雇(20.3%)
【3位】雇い止め(8.2%)
【4位】退職勧奨(6.6%)
【5位】労働条件の引き下げ(6.2%)
注:いじめ ・嫌らがらせには、「セクハラ、パワハラ等」も含まれます。
あっせんとは
紛争当事者の間に労働問題の専門家(弁護士や社労士、大学教授)が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。
また、利用は無料で非公開、かつお互いに顔を合わせないといった配慮もなされており、裁判に比べて手続きが迅速かつ簡便な方法です。

さて、労使間で紛争となり解決のため「あっせん」を利用したケースを見てみると、「いじめ ・嫌がらせ(33.0%)」と「解雇(20.3%)」の2つで全体の半数以上を占めていますので、この2つを中心に詳しく見ていきたいと思います。

主張1:「いじめ ・嫌がらせ」について

「いじめ ・嫌がらせ」には、セクハラやパワハラといった要素も含みますが、全体としては「労働者が働く職場環境が問題となっている」ということだと思います。
そこで、職場環境に関連する法律を見てみると、以下のようなものがあります。

労働安全衛生法 第七章の二
快適な職場環境の形成のための措置(事業者の講ずる措置)

第七十一条の二 
事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の
  設置又は整備
四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置

引用:労働安全衛生法より

この条文でいう「快適な職場環境」とは、作業環境(作業のやり方や清潔さ、作業時の温度や照明の明るさなど)や疲れた時に休める休憩施設といった物理的なもの(ハード面)から、職場の人間関係や働きがい、ストレスを感じることの少ないようにするといった心理的なもの(ソフト面)のどちらも含まれています。
つまり、「いじめ ・嫌がらせ」のような人間関係の問題も、企業は改善する努力が必要だということです。

「いじめ ・嫌がらせ」の中には、セクハラやパワハラといった内容が含まれていると述べましたが、パワーハラスメントに関しては、令和2年6月1日より職場におけるハラスメント防止対策が強化され、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務となります。
また、セクシャルハラスメント、マタニティーハラスメント(妊娠・出産・育児休業等に関する ハラスメント)は、既に男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により、雇用管理上の措置を講じることが義務付けられており、令和2年6月1日からの法改正からさらに防止対策が強化される運びとなっています。

つまり、いじめ・嫌がらせや各種ハラスメントなどが起きないように、快適な職場環境を整えてあげることは、企業側のなすべきことだと言えます。

主張2:「解雇」について

「解雇」についての考え方は、別の記事(下記関連記事)で触れていますので、詳細はそちらに譲ります。


解雇について大事なことが2つあります。
一つは、「少なくとも30日前に解雇の予告をしなければならない」、或いは「30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」という、手続き的な面での決まりです。

もう一つは、解雇権の濫用法理から「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は解雇無効」と判断されるということです。

刑事事件や横領等の重犯罪を起こしたようなケースは別として、「気に入らないから」、「仕事が出来ないから」あるいは「一時的な感情で、『もう会社に来るな』とクビ宣告をした」といったような解雇権の濫用法理に触れるような理由での解雇は出来ないと考えておくべきです。

解雇についての相談は、「解雇に納得がいかない」という解雇の当不当に由来するものがほとんどです。
もちろん、裁判で争えば解雇の正当性、有効性を証明できる解雇もあるでしょうが、「解雇するのは非常に難しい」とされる日本においては、解雇に関するトラブルついても、企業側に責任があるケースが多いと見るべきでしょう。

主張3:「労働基準法等の違反」の疑いがあるもの

実は、あっせん申請された内容だけでは捉えられないものがあります。
それはあっせん申請の手続きに進む前に行く前に、「労働基準法等の違反の疑いがあるもの」として弾かれているものです。

これは、個別労働紛争解決制度に寄せられた約112万件の相談のうち、約19万件(相談件数の約17%に該当する)は「労働基準法等の違反の疑いがあるもの」として、労働基準監督署や公共職業安定所等といった監督行政による行政指導等が行われている案件になります。

ここでいう「労働基準法等の違反の疑いがあるもの」とは、例えば、違法な長時間労働をしている(36協定を超える時間外労働をさせている、36協定自体を届出していない等)、残業代(割増賃金)の未払いがある、最低賃金を下回る賃金だったといったようなケースです。
つまり、そもそも法違反に該当しているため、労使間の主張を聞いて協議・調整をやるまでもなく、監督行政からその企業にメスが入っている事案という訳です。

この「主張3」に関しては、企業が法違反に該当しているので、従業員が訴えたということになります。

これらの主張から見えてくるもの

さて、持ち込まれた相談や労使間の紛争内容を見て、みなさんどう思われたでしょうか?


本当に「従業員の権利の主張が激しい」に該当するような内容だったでしょうか?






いいえ。
違いますよね?




これらの主張は、「義務を果たさなければ、権利を主張できない」という類のものではなく、企業側が果たすべきことを果たしていないが故に、労働者が当然あるべき権利として主張しているものと言えそうです。

一番の典型は主張3の「労働基準法等の違反」の疑いがあるもの」として扱われた相談です(112万件の相談のうち、約19万件(全体の17%)。
企業側からすれば、「労基署に密告して…」などとぼやきたい気持ちかもしれませんが、そもそも「悪いことはいつか必ずバレる」ものです。
また、「いじめ ・嫌がらせ」に関しては、企業側に快適な職場環境を作る義務がありますし、「解雇権の行使」も「濫用法理」との兼ね合いから、非常にセンシティブな扱いが必要で、おいそれと使えばトラブルに発展しやすいことは容易に想像できるでしょう。

「法の不知はこれを許さず」という言葉がありますが、これは今後一層、使用者(経営者)側・労働者(従業員)側、どちらにとっても非常に大切な考え方となります。

法の不知とは
法律違反を犯してしまった時に、そんな法律があるとは知らなかったでは済まされない(許されない)というもの

まず、社会問題や世の中の流れに対応していくため、企業には昔と比べ取り組まなければならないことが数多く課されています。従って、法改正情報や、新いルールをキャッチアップし続けなければ、知らないうちに法違反を起こしてしまう可能性があります。

また、労働者(従業員)も「自分の身を守るためにも知る力」は必要です。
インターネット、書籍などにより、昔に比べ労働者も労働関係法令等の知識を身につけています。
これまでは「知らなかった」から「おかしい」と主張できなかっただけで、法律やルールを知りそれが守られていないと分かれば、そのことを企業側に主張するのは当たり前ではないでしょうか?

少々、言葉は悪いですが、これまでは経営者が何やかんやと強く言えば、そういうものだと労働者を納得させることが出来ていたけれど、今は労働者側も知識を身につけたのみならず、いざとなったら駆け込める場所(労働基準監督署、職業安定所、相談会)や争える場所(個別労働紛争解決制度のあっせん制度の利用など)が増えたということが、昨今の労働者からの主張や労働相談の数が増えた理由と言えます。

個別労働紛争解決制度に寄せられた相談内容をベースに、労使間の争いの原因を見てきましたが、労働者(従業員)の権利主張の多くは企業側がやるべきことをやっていない(義務を履行していない)ことが原因のようです。

使用者(会社・経営者)が労働者に対して使える権利とは?

ここまでの内容を読むと、企業(経営者)側には守るべきことが多く、「義務の話はもういいよ」と苦々しい顔つきをされている経営者の方も多いのではないでしょうか?

さて、ここからは、義務の話ではなく、権利の話に移っていきたいと思います。

使用者(経営者、会社)の方々は、労働者に対して声高々と使える権利をきちんと自覚されていますか?


経営者が、労働者に対して使える権利は「業務命令権(指揮命令権)」です。

雇用契約書(労働契約)や就業規則等で定めていることが前提となりますが、基本的に労働者は使用者の指示に従わなければなりません。
また一般に、労働契約により使用者は業務命令権を取得するとされていますが、今回は分かりやすいように法律(労働契約法、労働基準法)の文言を取り上げることとします。

【労働契約法】
(定義)
第二条
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

(労働契約の原則)
第三条
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

(労働契約の成立)
第六条 
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

第七条 
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

引用:労働契約法より

【労働基準法】
(労働条件の決定)
第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
2 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

(定義)
第九条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

引用:労働基準法より

これらの法律から言えることは2つです。

1つ目は「労働者」は使用者に使用されて労働することで賃金をもらえるということです。言い換えれば、「使用者」はお金(賃金)という対価を払うことで労働者を使用する権利(業務上の指示・命令を出来る権利)を得ている訳です。

2つ目は、「労働者と使用者」は労働契約、就業規則等を遵守し信義に従い誠実に権利を行使し、及び義務を履行しなければならないということです(当然、権利の濫用はあってはなりません)。
注意していただきたいのは使用者側のみならず、労働者側もまた労働契約、就業規則等を遵守し、信義則を守った権利の行使と義務の履行が定められているということです。

「問題社員」による権利の主張へは、使用者側の持つ「業務命令権」が有効!

これまで見てきた労働者の権利の主張は、使用者(会社・経営者)側がやるべきことをやれていないが故に、問題に発展したというケースが多く見られました。それらに関しては使用者(会社・経営者)側の不徳の致すところと思い改める必要がありますが、権利の主張の中には、「問題社員」による権利の主張というものが存在します。
(問題社員への対応というテーマで別に一つ記事が書けるぐらい内容ありますが…)

問題社員の定義は様々でしょうが、例えば、「よく遅刻や欠勤をする」「あれこれ理由をつけて業務命令に従わない」「就業時間中にも関わらず、仕事をしていない(サボっている)」「会社のパソコンを使って私用のメールや仕事に関係のないネットサイトを閲覧している」「サービス残業の禁止やSNSへの企業内部事情・秘密などの投稿等、会社が禁止していることをやっている」などが挙げられます。

そんな問題社員に対しては、特に(使用者・経営者)の持つ「業務命令権(指揮命令権)」を使わないのは損です。

「業務命令権」とは労働者に業務上の命令を行えば、労働者はそれに従わなければならないというものです。もし、従業員が命令に従わない場合には、懲戒処分や最悪、懲戒解雇といったことも可能です(ただし、就業規則に定めておく必要あり)。

使用者が業務命令権を使ってやるべきこと(労働者が守るべき義務)

ノーワーク・ノーペイの原則

前述で引用した労働契約法にもある通り、「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者を言います。

従って、「ノーワーク・ノーペイの原則」とは、労働者が「労働」を提供していない場合(つまり「No Work」、働いていない場合)には、使用者はその部分についての賃金を支払う義務はないというものです。

例えば、労働者が遅刻や欠勤した場合は、その時間労働はしていないので、その分の賃金を支払う必要はないということです。
まずはこの原理原則を頭に入れておきましょう。

ダラダラ残業やサービス残業への対応

「業務命令権」を正しく使うことで、サービス残業、ダラダラ残業をしている従業員に対して、釘を刺すことが可能です。

従業員に残業をしてもらうには、就業規則への定めや36協定の締結、届出など手続きが必要ですが、そもそも、「残業」とはどういう位置付けかにあるかご存知ですか?

大体、就業規則等には、「使用者は業務命令として労働者に時間外労働、休日労働を命じることができる。また労働者は正当な理由なくこれを拒否することが出来ない」といった文言が定められています。

このような労働条件であれば、「残業をさせること」は、使用者の「権利」であり、労働者の「義務」と言えます。

別の言い方をすれば、残業は労働者の「権利」ではないということです。
つまり、「残業をさせる、させない」という選択権は、使用者側にあるのであって、労働者には「残業をする、しない」の権利はないということです。

であれば、経営者や上司が本当にその残業が必要かどうかを判断し、その都度業務命令を行うことが出来れば、無駄な残業は削減できるはずです。

上記関連記事の中でも触れていますが、中には生活費稼ぎのためにわざと残業をする従業員もいます。経営者や上司の方が、部下のマネジメントを面倒がってやらないから、こうしたダラダラ残業が横行してしまうのです。
勿論、そのためには経営者や上司に、部下の抱える仕事の量、部下の能力、ある仕事を行うのに必要と思われる作業時間(残業時間)といったことを把握しておかなければなりませんが、本来こうした仕事の管理と人のマネジメントこそが上司たる者の務めです。

また、企業によっては残業の許可制を採用していますが、これが形骸化して従業員の残業を見逃しているような状態になっていると、黙示的な指示があったとして、会社側が「残業は許可していない」と言い張っても認められない可能性が高いです。同じように早出出勤も労働時間とみなされる可能性があります。

会社として書面や注意指導等で、残業を認めるもの、認めないものを従業員に周知し、徹底することが肝要です。従業員が守らないようであれば必要な処置(注意指導、場合によっては懲戒処分)を講ずる必要があります。
そもそも、こうした不要不急な残業をさせないことは、企業の残業代の削減のみならず、従業員の健康確保にも繋がりますので、ワークライフバランスの世の中的にも意義のあることです。

仕事中の私的な行為への対応

一人一台PCを持たせていると、仕事中に私的な行為をする従業員は残念ながら出てきます。中には、残業時間中に、PCや携帯で私的な使い方(SNSやネットサーフィン)をする不届き者もいるほどです。

判例などを見ると、従業員の仕事中の私的な行為に対しても、企業側が目を光らせその都度注意をしていなければ、そうした私的行為の時間に関しても、企業の指揮命令下にあるとして労働時間とみなされる可能性があります。

会社が用意したPCや携帯は、従業員の業務遂行のために貸与しているにすぎず、従業員に所有権があるものではありません。
従って、企業側には、それらの使用状況を確認することが出来ます。
年に何度か、あるいは不定期にこれらを確認をすることはもとより、従業員に対しても業務外の事由での使用の禁止、会社による使用状況の確認を周知しておけば、仕事中の私的利用に歯止めをかけることにつながるはずです(もちろん、就業規則等に定めておく必要はあります)。

そもそも従業員(労働者)には職務専念義務がある

さて、色々書きましたが、皆さんお気づきでしょうか?
実は残業にしろ、仕事中の私的行為にしろ、「従業員が悪いこと」をしないように、企業側はしっかりと見張って(管理監督して)おきなさいという「性悪説」にたった視点に立ち、企業側は業務命令権を行使するべきという話になっています。

そもそも、ある一定の労働条件において、労働者と使用者の両方が合意したことで労働契約が成立しています。そして、労働者には「職務専念義務」が存在します。
ちなみに、国家公務員法には、以下のような文言で職務専念義務が明文化されていますが、我々のような一般の労働者に対して、同じように明文化された法律はありません。ですが、職務専念義務は、労働契約のなかに当然付随するものとして考えられています。(法律にない分、就業規則等に明記するのが一般的です)。

【国家公務員法】
(職務に専念する義務)
第百一条
職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。以下略・・・。

引用:国家公務員法より

「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者です。
「使用されて労働する」とは、会社の指示や命令に従って労働することです。
当然ながら、労働とは「企業が求める労働」であるべきですから、分かりやすい例でいけば、企業の目的達成のために必要な目標を達成するよう労働することは勿論、就業時間内は職務専念義務を遵守し仕事に真面目に取り組むこと、また、就業規則等に定めるような企業内のルールなども守らなければなりません。
そうした企業が求める労働の対価として、会社から賃金が支払われるということを労働者(従業員)に再認識させておきましょう。

こうしたことをきちんと説明しておけば、少なからず仕事中の私的な行為や不要不急の残業などをしようとする従業員に対して抑止力にもなるはずです。

今一度、労使間でお互いの権利と義務を確認すべし

使用者と労働者間の「権利義務」をテーマに書いてきましたが、やはり従業員の権利意識の高まりと権利主張への対応としては、今一度お互いの権利義務の確認から始める必要があると思います。

従業員の会社に対する不満の中に、「会社の方針がわからない」「自分に期待される役割が分からない」といったものがありますが、権利義務に関しても同じようにお互いの役割が分かっていないからこそ、問題に発展しているように思えます。実際、会社に入った後で、こうした労使間の権利義務の話を取り上げる機会というものはほとんどないのが現実です。

だからこそ、会社にしろ、従業員にしろ、自分がやるべきことは何かをお互いに理解しておくというのは非常に重要です。
労働関係法令はどうしても労働者を保護し、企業には制限を課す内容になりがちです。それを逆手に取るような形で、労働者が権利を主張するのが昨今の風潮なのだと思います(法違反などは論外ですが)。
もちろん、必要な権利の主張を労使お互いが行うことは大切ですが、それと同時に自分自信は義務を果たしているか、ということを振り返って欲しいと思います。つまり、労働者であれば、合意した労働契約という約束をしっかりと果たせているか、企業であれば法違反は起こしていないか、といったことを今一度考えてみることが大切ではないでしょうか?

聖書(ヨハネの福音書)の中で、石打ちの刑に処された女性に石を投げようとしていた人々に対し、イエス・キリストは「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」と言い、周りにいた人々は「自分が(何らかの)罪を犯したことがある」ということを自覚していたので、誰も女に石を投げることができず引き下がった、という逸話があります。

これと同じようなことが労働者と使用者との間の権利と義務の話にも言えるのではないでしょうか。自分のことを棚に上げて、相手を批判するのではなく、労働者と使用者がお互いを想い合える心の豊かさを持って欲しいものです。

非常に硬い言葉ですが、労働契約法にも「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」と、労働者・使用者両者を対象として言及している点をくれぐれもお忘れなく。

まとめ

長々と書いてしまいましたが、労使間の「権利と義務」の話は、いつかきちんと書きたいテーマだったので、とりあえずでも形にすることが出来て個人的には満足です。
勿論、考え方自体、人によって合う合わないがありますので、冒頭で申し上げた通り受け入れてもらう必要はありません。「ふーん。そういう異見もあるんだな」と頭の片隅にでも受け止めてもらえれば幸甚です。

この記事のまとめ
・権利と義務の関係について
・必ずしも「義務を果たさなければ権利を主張できない」という訳ではない
・個別労働紛争解決制度に寄せられた相談内容から見る従業員の権利の主張内容
・使用者が持つ権利とは?
・業務命令権を上手く活用することで問題社員に対応する
・「残業をする権利」は従業員にはない。
・従業員が果たすべき義務とは?
・何よりも今一度、労使間の権利と義務の関係を整理し確認することが大事
この記事を書いている人 - WRITER -
経営コンサルタント(中小企業診断士)、人事・労務コンサルタント(社会保険労務士)。福岡生まれの熊本育ち。性格は典型的な「肥後もっこす」。 「ヒト」と「組織」の問題解決(人材教育・育成や組織変革)を専門とする。 また、商社時代に培った経験から財務・会計にも強く、人事面のみならず財務面からの経営アドバイスも行う。 他にも社会保険労務士、中小企業診断士や行政書士など難関国家資格を含む20個の資格にフルタイムで働きながら1発合格した経験を生かし、資格取得アドバイザーとしても活動中。
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