【簡単分かりやすい】従業員を初めて雇用する時に必要な労働保険(労災・雇用)の手続と知識
「従業員を一人雇用すると費用(コスト)がいくらかかるか知っていますか?」という記事を読んでもらえば、従業員を一人雇用するとどの程度費用(コスト)がかかるのかがおおよそイメージ出来たかと思います。
今回は、そこから一歩進んで実際に従業員を初めて雇用した時に必要となる事務手続き【労働保険編】の話をしたいと思います。
初めて従業員を雇う経営者の方でも分かりやすいように【3STEP】に分けて説明しています。
ちなみに、こうした手続関係の仕事は、社会保険労務士の独占業務かつ専門分野の一つです。有料となりますが社労士の活用もご検討下さい。
本記事はこんな方にオススメの記事です
(初採用後の労働保険の知識や手続きが知りたい方)
・既に従業員を雇っているが、手続に一抹の不安がある経営者(事業主)
(ひょっとしたら、手続漏れが懸念されるかもしれない方)
【SETP1】労働保険とは何か?
「社会保険」という言葉はニュースなどで聞いて馴染みがあるかもしれませんが、それとは別の「労働保険」という言葉を聞いたことがありますか?
中には聞いたことがない方もいるかもしれません。
ですが、「労災事故」とか「失業保険、失業手当」といった言葉なら聞いたことがあるのではないでしょうか?これらの言葉に関係するのが労働保険です。
そこで、まずは「労働保険」の意味、「労働保険とはなんぞや?」という所から説明したいと思います。
労働保険について
初っ端から腰を折る形となりますが「労働保険」というそのものズバリの名前の法律(保険)は存在しません。
「労働保険」とは、「労災保険(労働者災害補償)」と「雇用保険」とを総称した言葉になります。
労災保険(労働者災害補償保険)とは?
「労災保険」とは業務(仕事)上、または通勤途中に事故などによって怪我や病気、あるいは死亡した場合に必要な給付を行う制度です。
TVやニュースなどで聞かれる「労災事故」とは業務上で起きた事故のことを指している訳です。同じように怪我や病気を対象に給付を行うもので「健康保険」がありますが、怪我や病気が業務上で起きたものか、そうではないか(業務外(私傷病))で適用される保険の種類(労災保険or健康保険)が異なってきます。
とりあえず、労災保険は業務上の事由や通勤によって負傷したり、病気になったり、あるいは死亡したりした場合に必要な給付を行うものと理解して頂ければと思います。
労災保険の給付には、指定医療機関等で業務上の怪我や病気の治療を受けられる療養(補償)給付、怪我や病気によって働けなくなり賃金の支給を受けられない場合に一定の所得補償を受けられる休業(補償)給付や障害になった場合には障害(補償)給付(障害等級によって年金or一時金)などがあります。
雇用保険とは?
「雇用保険」とは、労働者が失業した場合や会社の倒産などにより雇用の継続が困難になった場合に労働者の生活や雇用の安定を図ったり、再就職を促進するための給付を行うものです。
例えば、労働者が失業した場合にその所得を補填する求職者給付(基本手当、給付には受給要件あり)や、教育訓練の受講にかかった費用を支給する教育訓練給付などがあります。一般的に失業保険、失業手当という場合は、それぞれ雇用保険、求職者給付の基本手当のことを指していると思って下さい。
そのほかにも、育児休業期間中や介護休業期間中に(給付金が)支給される育児休業給付、介護休業給付などがあります(それぞれ受給要件あり)。
【STEP2】労働保険の加入対象となるのはどんな時?
【STEP1】で「労働保険とはなんぞや?」、「労災保険、雇用保険とはどういうものか?」ということを、おおよそご理解して頂けたと思います。
「初めて従業員を雇う時には、何か手続きをしないといけないらしい…」
「パートタイマーやアルバイトでも一定の要件を満たせば雇用保険に加入しなければならないようだけど…」と言った曖昧な感じでしか理解出来ていない経営者(事業主)の皆さんに、【STEP2】では実際にどのような状況になれば労働保険の手続が必要になるのかを見ていきたいと思います。
労働保険の加入について
厚生労働省のHPに掲載してある「労働保険」の成立要件は次のように説明されています。
「労働者(パートタイマー、アルバイト含む)を一人でも雇用していれば、業種・規模の如何を問わず労働保険の適用事業となり、事業主は成立(加入)手続を行い、労働保険料を納付しなければならない(農林水産の一部の事業は除く)」
引用(一部改):厚生労働省HPより
労働保険関係上での「事業」とは?
ここで労働保険関係での「事業」の意味を、きちんと押さえておくことが大切です。厚生労働省のHPに掲載されている「労働保険関係用語集」によれば、以下のように定められています。
「事業」とは、個々の本店、支店、工場、鉱山、事務所のように、一つの経営組織として独立性をもった経営体を指します。
引用:厚生労働省HP内労働保険関係用語集より
そのため、経営上一体をなす本店、支店、工場等を総合した企業そのものを指したものではありません。
事業は、事業の期間が予定されているか否かにより、「有期事業」と「継続事業」に分けられます。また、労災保険と雇用保険を分けて適用するかにより「一元適用事業」と「二元適用事業」とに分けられます。
「事業」と言うと、「当社の事業は○と▲を中心にやっておりまして…」と言ったビジネス会話から、どうしても企業そのもの(企業全体)のことを指すイメージがありますが、労働保険における「事業」とは各拠点(本店、支店、工場など)のことを指します。
従って、支店や工場を新設した場合で、従業員を一人でも雇うようになれば、別途、労働保険の加入手続きが必要になるということも頭の片隅に置いておきましょう。
【一読下さい!】前提条件:継続事業・一元適用の事業で、従業員を初めて雇用した場合
労働保険の加入手続を説明する前に前提条件を整理しておきます。
まず、今回説明する労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きは「継続事業・一元適用」に該当する場合の手続きとなります。
(有期事業や二元適用事業は対象外となりますのでご注意下さい。有期事業や二元適用事業に関しては以下の文章を参考にして下さい。)
労働保険の加入の手続きでは、事業の種類によって「継続事業」と「有期事業」とに分かれます。
「有期事業」とは、建築や土木などの工事を想像してもら宇土分かりやすいと思います。当初計画された通り工事が完了すれば、その仕事は終わってしまい事業が終了します。こうした建設の事業や立木の伐採(林業)の事業を「有期事業」と呼びます。それ以外の事業は「継続事業」と呼びます。
次に、一元適用事業か二元適用事業かについてですが、まず多くの企業が「一元適用事業(※)」に該当します。
(※一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を両保険一本として行う事業のことです。)
二元適用事業に該当するものは、「建設業」や「農林水産業」等です。これらの事業はその業種の特性から一元適用とは異なる取扱い(労災保険と雇用保険の加入(成立)手続きを別々に行う)となるため、「二元適用事業」として別に扱っています。
(※一般に農林漁業・建設業が二元適用事業でそれ以外の事業が一元適用事業となります。)
【注意】今回説明する手続きは、「有期事業」や「二元適用事業」には当てはまりませんのでくれぐれもご注意下さい。
【STEP3-1】従業員を初めて雇用した時の労働保険(労災保険)の加入手続
さて、長らく(?)お待たせしました。
ここからは実際に労働保険の手続きを見ていきたいと思いますが、必ず前の見出しの前提条件を一読し、自社の業種や従業員の雇用形態とが合致しているかどうかをご確認下さい。
労災保険の加入手続:「保険関係成立届」「概算保険料申告書」
労働保険の成立要件を満たせば、当然に保険関係が成立します。ただ、国からすれば、どの事業で労働者を雇用して保険関係が成立したかということは簡単には把握できないので、保険関係の成立要件を満たしたのなら、成立した日の翌日から起算して10日以内に「保険関係成立届」を提出することを事業主に求めています。
労働保険とは「労災保険」と「雇用保険」の総称ですので、それぞれの保険で加入要件を満たしているかどうかを考えていきます。
「労災保険」の加入要件(適用事業となる要件)は、「労働者を使用する事業を適用事業とする(同法第3条、農林水産業の一部を除く)」です。
事業を開始し、労働者を一人でも雇用していれば労災保険の加入対象ということです。つまり、初めて雇用した従業員が「労働時間が非常に短いから(例えば週1日勤務、1日の労働時間4時間のパートタイマー)」とか「パートタイマー・アルバイトだから」「外国人労働者だから」といった理由で労災保険に加入しなくても良いということにはなりません。
従って、労働者を雇用した場合は、保険関係成立の日の翌日から起算して10日以内に「労働保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に提出することになります。
また、「概算保険料申告書(正式名:労働保険概算・増加概算・確定保険料申告書(様式第6号))」を提出し、概算保険料を納付する必要があります。これは保険関係が成立した日(事業に従事する労働者を雇い入れた日)の翌日から起算して50日以内に申告・納付することとなっています。
概算保険料とは・・・
詳しいことは省いて簡単に説明すると、この場合の概算保険料は、保険関係が成立した日から3月31日(年度末)までの全従業員の賃金の見込額を計算して、その金額にその事業に係る「労災保険率及び雇用保険率」を乗じて算出されたものです。
【まとめ:労災保険の加入手続】
労災保険の加入手続をまとめると以下のようになります。
【継続事業・一元適用の事業の場合】
加入要件:従業員を一人でも雇った場合
何を | いつまでに | どこへ提出 |
(1)労働保険関係成立届 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 労働基準監督署 |
(2)概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 労働基準監督署 |
【補足】
・保険関係が成立した日とは従業員(労働者)を雇い入れた日(入社日)のことです。
・概算保険料申告書の正式名称は「労働保険・概算・増加概算・確定保険料申告書(様式第6号)」です。
・(2)は(1)と同時か、(1)の後に提出。
・(2)の提出に合わせてそれに記入した概算保険料も納付します。
【参考:添付書類】
注意:下記以外の書類の提出を求められる場合もありますので、あくまで参考として下さい。管轄によって要求される書類が異なる可能性ありますので、労働基準監督署への事前確認や加入手続時の行政機関の指示に従って下さい。
添付する目的 | 添付書類 |
事業の存在を客観的に確認できる書類 | ・事業主を確認する書類 【会社(法人)】 登記簿謄本 【個人事業主】 住民票の写し(原本) 注:上記の他、場合によっては、賃貸契約書など ・事業の実態を確認する書類 営業許可証、開業証明書など事業の実態が確認できる書類) |
その他 | 上記以外にも必要に応じて添付を求められる書類があります |
【STEP3-2】従業員を初めて雇用した時の労働保険(雇用保険)の加入手続
雇用保険の加入手続:「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」
労災保険の次は雇用保険の加入についてです。
「雇用保険」の加入要件(適用事業となる要件)は、「労働者が雇用される事業を適用事業とする(同法第5条、農林水産業の一部を除く)」ですが、ここでいう「労働者」とは「雇用保険の適用となる労働者(つまり、被保険者になる労働者)」と読み替えるので、労災保険と違い労働者を雇用すれば必ず雇用保険の適用、加入手続が必要となる訳ではないということを補足しておきます。
従って、雇用保険の適用となる労働者(被保険者)を初めて雇用した場合は、適用事業所となりますので、雇用保険の加入手続きが必要となります。
(被保険者の要件は、厚生労働省HP内のこちらのページをご参照下さい)
その際に提出すべきものは、労災保険加入時に提出し事業所の労働保険番号が記された「保険関係成立届(控え)」と「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」の3点セットで提出します。
前の会社で雇用保険に加入していた労働者を雇ったのであれば、別途「雇用保険被保険者証」の提出も必要となります。
これらの提出先は、公共職業安定所(ハローワーク)となります。提出期限は、適用事業所となった日(設置の日)の翌日から起算して10日以内に「雇用保険適用事業所設置届」提出する必要があります。
また、通常、「雇用保険被保険者資格取得届」は雇用した月の翌月10日までに提出することとなっていますが、「雇用保険適用事業所設置届」を提出する際は「雇用保険被保険者資格取得届」も同時に提出するよう行政側が指導しています(設置届自体が「保険関係成立届」と一緒に提出することになっていますので、結果として前述したように「3点セット」として提出する形となります)。
【まとめ:雇用保険の加入手続】
雇用保険の加入手続きをまとめると以下のようになります。
加入要件:雇用保険の適用となる従業員(被保険者となる労働者)を一人でも雇った場合
何を | いつまでに | どこへ提出 |
(1)保険関係成立届(控え) | (労働保険(労災保険)加入手続の際の事業主控え) | 公共職業安定所 |
(2)労働保険概算保険料申告書(控え) | (労働保険(労災保険)加入手続の際の事業主控え) | 公共職業安定所 |
(3)雇用保険適用事業所設置届 | 雇用保険の適用事業所になった日(設置の日)の翌日から起算して10日以内 | 公共職業安定所 |
(4)雇用保険被保険者資格取得届(人数分) | 通常:雇用した日の翌月10日まで 例外:初めて適用事業所となった場合は設置届と同時提出 |
公共職業安定所 |
(5)(必要に応じて準備) 雇用保険被保険者証 |
労働者から事業主あてに提出させておく | 公共職業安定所 |
【補足】
・(1)(2)は労災保険加入時に提出した保険関係成立届の控え(コピー)を添付。
・(3)「雇用保険適用事業所設置届」を提出する場合は、(1)(2)(4)も同時提出。
・(4)「雇用保険被保険者資格取得届」にはマイナンバーの記載必要あり。
・(5)前の会社で雇用保険に加入していた労働者を雇った場合には合わせて提出。
【参考:添付書類】
注意:下記以外の書類の提出を求められる場合もありますので、あくまで参考として下さい。管轄によって要求される書類が異なる可能性もありますので、公共職業安定所への事前確認や加入手続時の行政機関の指示に従って下さい。
添付する目的 | 添付書類 |
事業所の実在、事業の種類、事業開始年月日、事業経営の状況を確認できる書類 | ・事業主を確認する書類 【会社(法人)】 原則:登記簿謄本(登記事項証明書) 【個人事業主】 住民票 注:上記の他、場合によっては、賃貸契約書、不動産登記事項証明書、公共料金の領収書など ・事業の実態が確認できる書類 営業許可書、税務関係関係の書類(決算書、確定申告書など)、事業に係る納品書・請求書・領収書など |
労雇用実態(労働条件)、賃金支払の状況等を確認できる書類 | ・賃金台帳 ・労働者名簿 ・出勤簿(タイムカード) ・雇用契約書(労働条件通知書など) |
その他 | 上記以外にも必要に応じて添付を求められる書類があります |
おまけ:従業員を初めて雇用したからといって、必ずしも雇用保険の加入手続きが必要な訳ではない
労災保険は事業所単位で適用されますが、雇用保険は個人単位での適用となるので個人毎に雇用保険の適用可否を判断する必要があります。
従って、必ずしも「従業員を初めて雇った時」=「雇用保険の加入が必要」という訳ではありません。雇用条件次第で、雇用保険の適用になる労働者もいれば、適用とならない労働者もいるということです。
特に「従業員を初めて雇用する」ケースで、法の適用を受けない労働者(適用除外の者)のみを雇用するのであれば、その数のいかんに関わらず雇用保険の適用事業所として取り扱う必要はありません。
また、逆を言えば、雇用保険の対象となる者を一人でも雇えば適用事業所となる(加入手続きが必要)ということです。
少し説明がくどくなりましたので、分かりやすいように事例を挙げておきます。
1.一人で事業を立ち上げ、順調に売上も出て、一人で切り盛りするのが段々と大変になってきました。
2.やることが多く時間が足りなくなってきたこともあり、自分(事業主)がやる必要のない、誰でも出来るような業務(例えば電話応対や請求書や納品書の発行など)を従業員を雇って任せようと考え始めました。
3.ただ、いきなり正社員で雇うことは、「任せる仕事量」や「人件費」の面やからいっても厳しいのが現状です。
4.そこで、週1日や2日、しかも短時間働いてもらうパートタイマーやアルバイトを雇うこととしました。
さて、こうした事例の場合でも字面的には「従業員を初めて雇った場合」となります。前の見出しで説明したような雇用保険の手続きが必要なのでしょうか?
答えは「ノー」となります。
仮に週2日勤務で、1日8時間働いてもらうとしても、週の所定労働時間は16時間です。
パートタイマー(アルバイト)が雇用保険の適用となる被保険者の要件は、以下の2つをいずれも満たす必要があります。
従って、従業員を初めて雇用する場合に限れば、「雇用保険適用事業所設置届」を提出するということは、少なくとも雇用保険の加入が必要な従業員を一人は採用しているということを意味します。
雇用保険の加入手続は大切なものですが、従業員を初めて雇用したからといって、必ずしも雇用保険の適用事業所とはならない(加入要件を満たす訳ではない)ことも知っておきましょう。
加入手続を怠っていた場合
労働保険は、国が管理・運営する強制的な保険で原則として労働者を一人でも雇えば、事業主は労働保険の加入手続を行い、労働保険料を納めなければなりません。
従って、成立手続を行うよう指導を受けたにもかかわらず、成立手続を行わない事業主に対しては、行政の職権による成立手続及び労働保険料の認定決定を行うこととなります。その際は、遡って労働保険料を徴収するほか、併せて追徴金を徴収することとなります。
また、2005年(平成17年)11月から、労災保険未加入の事業主に対する費用徴収制度が強化されています。2005年当時は、労災保険の適用事業であるにもかかわらず、加入手続を行わない未手続事業の数は約54万件に上ると推定され、事業主間での費用負担の公平性の観点から強化されたのが背景です。
その内容は、遡って労働保険料を徴収(最大2年間、追徴金(10%)も徴収)することは勿論ですが、事業主が「故意」または「重大な過失」により、労災保険の加入手続を行っていない期間に労働災害が発生し、保険給付を行なった場合は、労災給付に要した費用の100%又は40%を徴収することとなっています。
ちなみに、ここでいう「故意」とは、行政機関から加入手続について指導等を受けたにも関わらず、手続きを行わない期間中に業務災害、通勤災害が発生した場合を言います。また、「重大な過失」とは行政機関から加入について指導等を受けていないが、労災保険の適用事業となった時から1年を経過して、なお手続きを行わない期間中に、業務災害、通勤災害が発生した場合を言います。
そもそも労災保険は事業主の負担をカバーするために存在する
2005年当時は未加入事業の数が約54万件に上ると推定されていたと前述しました(現在、その数は強化策や加入への指導等で随分減少しているものと推察します)。中には単純な手続き忘れもあるのでしょうが、未加入の多くは労働保険料の支払負担が嫌なのだろうと思います。
ですが、「そもそも、なぜ労災保険(労働者災害補償保険)制度が出来たのか?」その成り立ちを知れば、未加入事業主の加入への躊躇もなくなるはずです。
労働基準法では労働者の災害補償は事業主が負担するのが原則
労働基準法には「災害補償」の項目があります(第75条乃至第88条)。
一つ例を挙げると、
労働基準法 第75条
引用:労働基準法より
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
上記の条文は、療養補償のものですが、それ以外にも休業補償、障害補償、遺族補償などが定められています。いずれにしても、会社(事業主)がそれぞれの補償を負担する内容となっています(業務災害のみ、通勤災害は除く)。
当然大きな業務災害が起これば、その分、会社(事業主)が負担する金額が大きくなり、最悪の場合その負担が原因で倒産する可能性もあります。また、十分な資力がない会社であれば、負傷した労働者の補償を行うことすら出来ず、労働者が被害を被ることもあります。
そうしたことがないよう、労働者への補償と会社への負担をカバーするために作られたのが労災保険(労働者災害補償保険)制度です。
労働基準法第84条には、「この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法(労災保険)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる」と定められています。
また、労災保険では業務災害に加えて、通勤災害も補償されていますので労働者側から見てもメリットのあるものです。しかも、費用負担は会社(事業主)のみで従業員負担は一切なし。
労災保険への加入は、労働者を守るという意味もありますが、いざという時に会社(事業主)を助けることにも繋がるということを踏まえれば、未加入という選択肢はないでしょう。
(そもそも要件を満たせば加入義務があるものですが)労働保険(労災・雇用)の適用事業所に該当したのなら、自分(事業主・会社)のためにも速やかに加入手続を行うようにして下さい。
まとめ
さて、本記事「「従業員を初めて雇用する時に必要な労働保険(労災・雇用)の手続と知識」」を読めば、以下のことが少しは理解できたと思います。
(労災保険と雇用保険について)
・STEP2:労働保険の加入対象となるのはどんな時?
・STEP3−1:労災保険の加入手続
・STEP3−2:雇用保険の加入手続
・おまけ:従業員を初めて雇用したからといって、必ずしも雇用保険の加入手続が必要な訳ではない
・加入手続を怠っていた場合
・そもそも労災保険は事業主の負担をカバーするために存在する
以上、従業員を初めて雇用する際には、労災保険、雇用保険それぞれの加入要件(適用事業に該当するかどうか)を確認の上、必要な手続を取るようにして下さい。この記事が、これから従業員を初めて雇用する経営者(事業主)の方のお役に立てば幸甚です。
(追:社会保険の加入手続も近いうちにまとめて投稿する予定です、多分)