就業規則とは何か?何人から届出義務?作成する意味・目的は?3つの視点でわかりやすく説明
経営者であれ、労働者であれ、「就業規則」という言葉は聞いたことがあると思います。
ですが、就業規則を見たことがないという労働者もいるぐらいですから・・・、まして内容まで詳しく理解している人は少ないことでしょう。(おそらく、人事担当者や我々「社会保険労務士」ぐらい。)
そういう方々もいる中、いきなり就業規則の詳しい話をしても拒否反応が出ててしまうと思いますので、今回の記事では、まずは「就業規則とは何か」や「作成の意味や目的」について分かりやすく説明していきたいと思います。
就業規則とは何か
「就業規則」とは、お堅い言葉で表現すると、「労働者が職場で遵守すべきルールと労働者の労働条件についてまとめたもの」と言えます。
普通に会社で働いているような方であれば、「会社で働く上でのルールを明文化したもの」というぐらいの理解で十分だと思います。
経営者と労働者との間で結ばれる雇用契約書にも一定の労働条件が記載されていますが、一般的にそれよりも広範囲かつ詳しい内容で記載されているのが就業規則です。
例えば、就業時間、休日などに加えて
・懲戒解雇となる事由
・(労働者が守るべき)服務規律
・退職事由や退職の手続き
・定期健康診断について
などといった様々な事項が記載されています。
労働者が10人以上になったら就業規則の作成義務がある
ここからは少し法律的なお話をしていきます。
まず経営者の皆さんに知っておいてもらいたいことは、「労働者が10人以上になったら就業規則を作成する義務がある」と言うことです。
その根拠条文は、以下に記載した労働基準法第89条になります。
【労働基準法第89条】
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
1. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
2.賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3.退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
3の2. 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
4. 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
5. 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
6. 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
7. 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
8. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
9. 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
10. 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
ちなみに、ここで言う「常時10人以上の労働者」とは、正社員のみならず、アルバイトやパート等を含め10人以上の労働者を使用するのが常態の場合をいいますので、「うちは正社員は10人未満だから就業規則は作らなくても大丈夫(パートやアルバイトはノーカウント)」などと勝手な解釈をしないように注意して下さい。
また、この条文をしっかり読めば分かると思いますが、就業規則には、必ず記載しなければならない事項と、会社で定めた場合は記載しなければならない事項とに分かれています。いわゆる、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項というやつです。
条文の文言を見ると、3号までは断定していますが、3号の2や4号になると「〜の定めをする場合においては、・・・」と言う文言に変わっていますので、法律に馴染みのない方でも2つ(絶対的/相対的事項)の区別がつくのではないかと思います。
従って、労働基準法第89条第1号乃至第3号(1号から3号にかけて)が絶対的必要記載事項で、第3号の2乃至第10号(3号の2から10号にかけて)は相対的必要記載事項になります。
ちなみに、「乃至」というのは法律用語として用いられる言葉(他にも「又は」「及び」「並びに」とか)で、「・・・から〜にかけて」という意味です。
色々と説明しましたが、労働基準法第89条を噛み砕いて言えば、
・そして作るからには、労働時間に関すること(労働基準法第89条第1項第1号)、賃金に関すること(同第2号)、退職に関すること(同第3号)は必ず就業規則に記載しなければならない
経営者の皆さん、理解出来ましたか?
特に、労働者の人数をカウントミス(アルバイトやパートを除いている)している会社も多いので、しっかり理解しておきましょう。
労働者が10人以上いる場合では就業規則の作成、届出は必須です。
つまり、就業規則の作成は法律上の義務になるということです。
義務ということは、当然怠った場合は罰(30万円以下の罰金が課せられます)があります。うっかり法律違反にならないように、今一度自社の労働者の現況を確認しておきましょう。
そもそも、就業規則を作る意味・目的は
この記事の最後になりますが、そもそも「就業規則を作る意味・目的は何か」を考えてみたいと思います。
経営者によっては、労働基準法第89条を根拠条文として、「作成義務があるから作るだけで、特にそれ以上の意味なんてない」と思っている人もいるかもしれません。
ですが、そのような考えでは、経営者・労働者双方にとって良い就業規則は作れません。
冒頭の「就業規則とは何か」の項目で、「会社のルールを明文化したもの」と説明しました。
会社のルールを作ることは、すなわち「労働者の安心につながる」と私は考えています。
ここでいう安全とは、「労働環境としての安心」と、「情報開示による安心」です。
(意味その1)労働環境としての安心
まず、「労働環境としての安心」ですが、我々が住む日本では、憲法、法律、政省令などによってルールが決められています。
ルールのない無秩序の世界だとそれぞれが勝手なことばかりして、収拾のつかない世の中になってしまいます。
もう少し身近な例で置き換えると、私たちは生活する上で様々なマナーを守っていますよね。
公共交通機関では、携帯はマナーモード、通話はしない。歩きスマホ、歩きタバコはしない。
こういったことをお互いが守ることで、みんなが気持ち良く生活することができる訳です。
(と言っても、最近はマナーが悪い人も多いですけど…。)
これ(憲法、法律、マナーetc)と同じことが、会社の就業規則にも言える訳です。
例えば、
・就業時間は何時から何時までか
・どういうタイミングでお給料が支払われるのか
・有給休暇が何日もらえるのか
・どういうことをすると懲戒処分の対象になるのか
などといったことがきちんと就業規則に書かれ、それを労働者が知り、皆で共通認識できていることで、組織の中で一種のセーフティ機能が発揮され、社内の秩序や安心が守られる訳です。
これは「就業規則は、労働者へ周知されたときから効力を発する」と言われていることからも分かるとおり、皆が就業規則を知っていて初めて成り立つものです。
(意味その2)情報開示による安心
次に、「情報開示による安心」です。
本来、知っておくべきことを知らされていないときに、人は不満や不信感を抱きます。
(そもそも「知る権利」は、基本的人権の1つとして扱われているのですから。)
例えば、経営戦略の一つとして、労働者に毎年財務諸表(決算書)公開し、その内容をきちんと説明している企業もあります。
そういった情報開示を行うことで、会社の経営は厳しいのか、調子が良いのか、どの部署が黒字なのか、あるいは赤字なのか、雇用を維持するためにどの程度人件費かかっているのか、会社の戦略が口先だけじゃなく、有言実行されているかどうか(例えば、商品開発に力を入れると言いながら、全く研究開発費に力を入れていなかったりしたら、口先だけだと判断できる)、といったことが労働者にも伝わり、やる気にも繋がります。
これと同じことが就業規則にも言えます。
例えば、昇進やボーナスに繋がる評価制度のやり方や反映の度合い、退職金の積立、金額の決定方法などが就業規則に書かれていれば、何をどれだけ頑張れば昇進できるのか、或いはボーナスが上がるのかが明白になり、労働者のモチベーションに繋がります。
(この辺りは就業規則というよりも人事評価制度に関連したりするので、一部の規程は内規扱いにするなど開示の程度に注意を払う項目もあります)。
また、会社にはグレーなルールもあります。これは法律的にグレーということではなく、明確な根拠がなく、全員に知られていないゆえに、「ある人はやってるけど、ある人はやってない」というような不公平さが生まれ、それが不満の原因にもなることがあります。
例えば、長年勤めている人しか知らないような社内ルールや慣習があると、後から入社した人や違う部署の人が知らなかったり、権利を行使できないことで不平・不満に繋がることもあるということです。
就業規則を作ることで、このような暗黙知だったルールが、形式知化(明文化)され、誰でも(特に新しく入社した労働者)社内ルールが一目で分かり、不要な不満が減ることにも繋がります。
「労働環境としての安心」「情報開示による安心」と書きましたが、結局のところは社内ルールとして明文化することで、経営者と労働者間の情報の非対称性の解消されることで、より良い会社経営につながるということです。
ただし、就業規則によって社内ルールを明文化したからといって、コミュニケーションを疎かにして良いということではありません。
就業規則の解釈は人によって違うこともありますし、そもそも冒頭で述べたように、内容を詳しく理解できる人は限られますので、定期的に就業規則の説明を行ったり、規則を変更する際には、適宜説明会を行うなどの努力も必要となります。
まとめ
最後に、就業規則は「経営者の思いを形にしたもの」とも言えます。
今回の記事の中で説明したように、絶対的必要記載事項を除けば、あとの項目を定める定めないは会社の自由です。
したがって、経営者がより良い環境で労働者に働いてもらいたいという想いが就業規則には込められています。
しかし、その想いとは裏腹に最近は権利ばかりを主張し、義務を果たしていない労働者が多いということも事実です。
やはり残業時間、有給などの権利を行使することを主張するのであれば、同時に義務(会社に貢献するような成果をあげる)を果たすことも必要となります。
(労働者が義務を果たせないからといって、法律違反を犯すような働き方をさせて良いということではありません)
就業規則には、そういったお互いの権利義務を明確にする役割もあります。
今後、企業成長の鍵となるのは、このお互いの権利義務のバランスがうまく取れた経営を出来るか否かでしょう。
そのための1つの手段として、就業規則を活用を検討してみてはいかがでしょうか?