【分かりやすい財務分析】会社の倒産原因は赤字決算・債務超過が理由ではなくお金がないから
2008年のリーマンショックでは上場企業の倒産が30件以上、同年の全国の企業倒産件数は15,000件を超えていました。(勿論、2008年以後もその影響は残り、しばらくは倒産件数が高止まり)。
中でも、リーマンショックが引き金となり会社更生法を申請した「JAL(日本航空)」がとりわけ有名です。
今回のコロナ禍(コロナショック)は、2008年のリーマンショックより影響は大きいでしょう。特にコロナ禍により飲食業、接客業、観光業を中心に大きな影響が出ています。
しかも、リーマンショックと違って、コロナウィルスの感染拡大を防止するためには、活動を大幅に制限することが求められます。
先の述べた業界は「人との接触や移動」を前提とした経済活動を行っているので、コロナ禍が長引けば更に影響が出ることでしょう。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は「分かりやすい財務分析」として「倒産」について話をしたいと思います。
赤字や債務超過になったから倒産する訳ではない
「会社が倒産する時はどんな時?」という質問をすると、
返ってくる答えとしては
・「赤字になった会社、或いは赤字が続いている会社」
・「債務超過になった会社」
といったものが多いです。
前者はまだまだ会社のお金の流れなどが分かっていない新入社員や若手社員の方で、後者は財務・会計や財務分析を少し齧った方なんかに見られる傾向かもしれません。
しかし、残念ながらどちらも正解とは言えません。
仮に4〜5年赤字が続こうとも、倒産しない会社もありますし、債務超過(企業の負債総額が資産総額を上回ること)になっても倒産しない会社もあります。
ではいったいどうなったら、会社は倒産するのでしょうか?
お金がなくなった時(支払が出来なくなった時)が倒産
ズバリ、会社が倒産する時は、お金がなくなった時です。
支払いをすべきものが支払えなくなった時に会社は倒産する訳です。
破産手続きは、破産法に従い債務者或いは債権者が裁判所に申し立てすることで開始されますが、一旦法律的・専門的なことは置いておいて、ここでは支払が滞ればその後どういうことになるか、を簡易的にイメージとしてみたいと思います。
例えば、仕入の支払が滞れば、それ以上商品を仕入れることも出来ません。
また、調査会社、或いは経営者同士の繋がり、SNS等の情報によって支払遅延が発生していることが他の取引先にも伝わります。
そうなれば、不信感から掛け取引・手形取引をしていた販売先・仕入先は取引を止めますから、商売としての事業が継続出来なくなり倒産せざるを得ない状況に追い込まれることが想像出来ます。
支払遅延(支払猶予のお願い)に関して
ある程度の規模の会社になれば、債権管理やリスクマネジメントの考え方が浸透しつつあるので、最近はあまり聞かなくなりましたが、昔は「支払いを来月まで待って欲しい」といったお願いや「手形ジャンプ」いうことがしばしばあったそうです。
営業の皆さんも得意先の社長さんから「今月資金繰りが厳しいから支払いを来月まで待ってよ」なんて電話で言われてつい「分かりました」なんて返事をしてしまった経験がある方もいるんじゃないですかね?
「資金繰りが厳しい」とは直接言われなくても、「お客さん(得意先の転売先)からの入金が遅れているから、それに合わせて支払いも待って欲しい」なんていう頼み方もあります。
ただ一つ言えることは、支払遅延のお願いを安易に受け入れたダメだということです。支払を待ってあげたからと言っても、新しく約束した支払日に必ず支払いをしてくれるという保証はない訳ですから、その場の感情(同情)や、少しぐらいなら大丈夫だろうと言った安易な判断はしないようにしましょう。
黒字でも倒産するカラクリ(黒字倒産)
「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これが「支払が出来なくなったときに倒産する」の一例です。
「黒字倒産」。
文字通り、会社としては黒字経営をしています。
財務・会計に疎い方であれば「なんで黒字なのに会社が倒産するの?」と不思議に思うかもしれません。
黒字ということは「収入-費用」がプラスということです。
黒字であることと、それ自体勿論良いことなのですが、黒字だからといってお金があるかどうかは別問題です。
特に営業の方は、「商品を売って終わり」と考えている方も多いと思いますが、実際には、「商品の引き渡し」と、「売上代金の入金」「仕入代金の支払い」の時期にはそれぞれタイムラグが生じます。
黒字倒産は、この入金と支払のタイムラグによって支払が滞ることで起こる倒産です。要は売上も上がって黒字なんだけど、運転資金が枯渇して支払うべきものが支払えない状況という訳です。
黒字倒産の主な要因としては、売掛金の回収遅れや不良債権化(貸倒れ)、過剰な商品在庫などが挙げられます。
だかこそ、債権管理や長期滞留在庫などのチェックが重要になる訳です。
手元流動性が鍵
会社の安全性の指標として自己資本比率が有名です。
実際、経営者の中にも自己資本比率を気にされている方は多いです。
ですが、下記関連記事でも述べている通り、「自己資本比率が高いからと言って必ずしも現金・預金が多い訳ではありません。
いくら、自己資本比率が高かろうが、手元に現金がなく、喫緊の支払いが出来なければ会社は倒産に追い込まれます。
だからこそ、重要になるのが指標の一つが「手元流動性」です。
「手元流動性」は、一般に「現金・預金+すぐに売却できる資産(有価証券等)」で計算することが出来ます。
さらにこの金額を月商や日商で割ることで、「手元流動性比率」として活用することが出来ます。
手元流動性比率としては、中小企業は1〜1.5ヵ月程度が多く、大企業で1ヵ月前後です。
(補足:大企業の場合は売上高自体が大きいので、手元流動性比率になるとどうしても値は小さくなる傾向にあります。とは言え、同比率が1年(12ヵ月)近い数値になるキャッシュリッチ企業も存在します(例えば任天堂など))。
一般に、手元流動性が高い方が、急激な売上高減少などでも支払が滞る可能性が低いので、安定した会社と言えます。
また、外部からは見えないけれど、上記以外で手元流動性に加算出来るものとして、同族経営やワンマン社長等の個人資産(会社に貸し付けて運転資金とする)や、銀行の借入可能枠などがあります。
要は、一般家庭でいうところの「へそくり」扱いみたいなもので、会社とは関係ない自分の個人資産や銀行、或いは経営者の友人から借りると言った方法であっても、お金が調達できて支払いが出来れば倒産は免れる訳です。
あと、最後に軽く触れておきますが、現金・預金があれば確かに安全性が高い企業と言えますが、悪く言えば資金をだぶつかせていて有効活用出来ていないとも言えます。例えば、技術の進歩が激しいIT業界や製造業では新技術の開発や最新機器の導入による生産効率・品質向上が業界で生き残る上で鍵となります。
お金を貯めてばかりだと、そうした技術開発や最新設備の導入に投資しないこととなり、将来的には競争力の低下・売上の減少を生む可能性もはらんでいるということです。何事もバランスが大切ということですね。
まとめ
くどいように何度も述べてきましたが、会社が倒産する原因は、赤字でも債務超過でもありません。お金がなくて、支払不能に陥った時に会社は倒産します。
経営者の方は、自己資本比率の値も大事ですが、手元流動性がどの程度あるのかにも目を向け、緊急時に備えて自社の支払能力もしっかり把握しておいて下さい。
また、財務分析をされる方や取引関係者は相手の会社の手元流動性、手元流動比率などを活用してその会社の安全性を確認しておきましょう。
・赤字経営や債務超過でも会社は倒産しないが、会社の支払能力がなくなった時に倒産する
・「手元流動性」「手元流動性比率」といった指標を活用して安全性を見極める