【事例から学ぶ】有給休暇の制度、有給の理由を尋ねることや有給の拒否や許可制について
「振替休日と代休の意味とその違いを分かりやすく解説!」という記事を書いたので、その流れで今回は「有給休暇(年次有給休暇)」について触れておきたいと思います。
「有給休暇」と言えば、皆さんが関心が高いことなのに、結構間違った運用をしている中小企業も多いのです。
だからこそ、是非とも経営者や管理職の方に一読してもらいたい記事です。
もちろん、労働者の方も必見です!
この記事を読んで「あれ?、うちの会社間違った運用しているじゃん」と思った方は、法律に触れてしまっている可能性がありますから、今一度法律の解釈と運用法を見直しましょう。
よくありがち!有給休暇制度の間違った運用例
それでは、ありがちな有給休暇制度での間違った運用例をみてみましょう(解説は後ほど!)。
事例その1:うちの会社には有給なんてない(存在しない)!
「うちの会社には有給休暇なんてないからな」
ブラックな企業の社長や上長(工場長、所長、上司など)から聞こえて来そうな台詞ですね。
今時、上の人間がこのような発言しているようでは、はっきり言ってダメです・・・。
事例その2:有給の取得理由いかんで、有給が取れたり取れなかったり。
「有給の取得理由が旅行のためとかうちの会社ではありえない」
「冠婚葬祭、風邪以外では有給が使えないぞ」
「売上が上がっていない(成績が悪い)のに休めるなんて思うなよ」
そもそも、有給の取得理由を申告させたり、有給を取るのに条件を持ち出しているようでは・・・。
事例その3:有給を申請したら断られた(承認が下りなかった)。
「有給を申請したけど、「その日は忙しいからダメだ」と経営者や上長(部長や課長)から断られた。
その結果、泣く泣く別の日に有給を取ることにした」
希望は叶わなかったものの、一応有給が取れたので一見良さそうな感じがしますね。
さて、このケースはどうなのでしょうか?
以上、よくある運用事例としてその1〜3まで挙げてみました。
詳しい解説はこれからしていきますが、実際、このように有給休暇を運用している経営者や上長の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
または、事例と同じような目にあっている従業員(労働者)も多いのではないでしょうか?
心当たりがある方は、法律に接触している可能性がありますよ。
年次有給休暇制度とは?(事例その1の解説)
そもそも年次有給休暇の制度は、
ちなみに、上の文言を表に落とし込むと、このようになります。
勤続年数 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
この条件が満たされれば、従業員(労働者)に自動的に有給休暇が発生し、付与されるものです。
会社が有給を付与するとかしないといった選択権はありません。
だから、例えば、就業規則に年次有給休暇を与えないといったことを書いたとしても、労働基準法で定める最低付与日数を下回る(上の表)就業規則を作成することは出来ません。
ということは、普通に働いていれば事例その1で書いたように、「うちの会社には、有給休暇なんてないからな」ということはあり得ない訳です。
有給取得の際に、「理由」を聞くのはOKなの?(事例その2の解説)
事例その2のように、会社によっては有給の取得理由を聞く会社ってありますよね。
それってどうなのでしょうか?
有給を申請する人によっては、「遊び(旅行や買い物)のための休みだと、本当の理由が書きづらかったり」、「正直に書いたら、顰蹙を買いそう」、「何するって訳ではないけど、休みたいから休むのに、何て理由を書けば良いか難しい」、といったことを思う人も多いかと思います。
そもそも、有給取得に際して理由を申請する必要はないのですが、理由を聞くこと自体は違法ではありません。
特に、海外旅行など長期に渡るときや遠方の場合は、居場所を把握しておくという意味で会社側としては知っておきたいことかなと思います。
この辺りは、会社側と従業員側とのコミュニケーションの問題ですから、風通しの良い職場、雰囲気を作るようお互いに努力する必要があるでしょう。
ちなみに私がサラリーマン時代は、有給申請時に理由を言う必要はなかったけど、口頭ベースで「資格試験の勉強するため」と説明し、堂々と数日間有給を取っていたぐらい雰囲気の良い職場でした。
有給休暇の許可制ってあり?(事例その3の解説)
例えば、「旅行するため」といった申請理由だと有給が取れなかったり、「有給は病気や冠婚葬祭の時に使うものなんだ」といった大昔の考え方が根付いているような会社も存在しています。
有給が取れるかどうかが上長の判断次第で、有給が許可制になってしまっている会社ってありますよね?
少し話が逸れますが、「有給は病気や冠婚葬祭の時に使うものなんだ」といった大昔の考え方が根付いている会社が現代にそぐわない理由が分かりますか?
基本的に有給って従業員の疲労回復とリフレッシュが目的なんですよ。
短期的な視点ではなく、長期的な視点に立って物事を考えれば当たり前のことですが、疲れた身体、仕事のストレスで気持ちも滅入った状態で働き続けるのと、従業員にきちんとリフレッシュさせ、適宜気力と体力を回復してもらって働いて貰うのとでは、どちらが効率が良いと思いますか?
どう考えたって後者ですよね。
これだけ競争が激しい世界ですから、売上高や商品・サービスという項目だけではなく、従業員のパフォーマンスにも気を配らないと生き残っていく企業にはなれないでしょう。「CSではなくESを優先しろ」なんて言われていることからも分かると思います。
さて、本題に戻りますが、有給休暇の目的からいっても取得理由によって有給取得を拒否したり、許可制にすることはできません。
こういうことを言うと必ず、「従業員から有給を申請されたらいつでも認めないといけないのか?」、「休まれると業務が回らなくなる」といった声が出てきます。
そのため、法律では会社の時季変更権を認めています。
この時季変更権とは、有給取得によって事業の正常な運営を妨げる場合、会社は有給休暇の取得日を替えてもらうことができると言うものです。
ただし、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、「単に繁忙期である」といった理由では認められないというのが一般的な解釈です。
労働者の有給休暇取得日の労働が、その者の担当業務を含む相当な担当の業務の運営にとって不可欠であり、かつ代替要員の確保も困難であることが必要です。
言い換えれば、業務運営に不可欠な者からの有給休暇請求であっても、使用者(会社)が代替要員の確保の努力もしないままに直ちに時季変更権を行使することは許されない。と述べられています。
つまり、慢性的な人手不足で、人手を補充することなく、人手不足を理由として有給休暇の取得日を振り替えてもらうことは出来ないということです。(でないと、いつまで経っても有給休暇を取得することが不可能)
会社側も相応の努力義務を負っているということですね。
本来、会社が時季変更権を行使するのは、なかなか難しいことがご理解頂けたかと思います。
許可制にすることは出来ないのですから、まさか間違っても会社の有給申請の様式が「有給許可申請書」なんてタイトルになっていませんよね?こういったもの(申請様式)がきちんとしていても、運用が間違っていればダメなのは勿論ですが、念のため見直しておきましょう。
日本の有給取得率は「51.1%」、有給取得日数は「9.3日」
最後に、日本の有給取得率と取得日数も紹介しておきます。
厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査」によれば、一年間に企業が付与した年次有給休暇日数18.2日に対して、実際に労働者が取得した日数は9.3日だということです。
中でも、建設業や卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業の取得率は、30%台と低迷しています。(みなさんのイメージ通り?)
この記事にも書いていますが、年次有給休暇は従業員の疲労回復とリフレッシュが目的です。
例えば、小売業やサービス業で働いている人が、体が重い、なんだか気持ちが滅入っているような状態で接客してもらうより、適度に心身ともにリフレッシュしてもらって元気に愛想よく働いてもらった方がサービスを受けるこちら側も良い気持ちになるのになぁなんて思ったりもします(みなさんプロなので、露骨に顔や仕草に出ないとは思いますけど)。
まとめ
以上、事例をもとに有給休暇の制度面、運用面を説明しました。
一昔前の中小企業などでは、「風邪か冠婚葬祭以外では有給が取れない」というケースは珍しくもありません(私も経験済み)。
会社は、日本に420万社あると言われますので、まだまだこういった会社は多く存在していることでしょう。
しかし、本来、有給とは従業員の疲労回復とリフレッシュが目的であり、年次有給休暇制度の要件を満たせば、自動的に付与されるものです。そして、事業の継続を願うのであれば、今後益々従業員を大切にする気持ちが必要不可欠となります。
経営者の方などは、是非この機会に有給休暇制度の運用を見直して、働きやすい、休みやすい職場を目指して下さい。そのためのお手伝いを我々社会保険労務士がしてくれますよ。