就業規則はいつまでに作成?、いつから有効?
「就業規則とは何か?何人から届出義務?作成する意味・目的は?3つの視点でわかりやすく説明」でも触れたように、法律上、労働者が「10人以上働くのが常態」となってはじめて就業規則の作成・届出義務が生じます。
では、義務がないからといって、労働者を10人(以上)雇うまで、就業規則を作成しなくても良いのでしょうか?
今回は、この点について私見を交えて説明したいと思います。
多くの経営者が就業規則の作成を後回し
実際には多くの経営者が、労働者が10人以上になるまで就業規則を作らないというケースが、ほとんどではないでしょうか?
それは、
・いざ、就業規則を作るとなると面倒だし、その上お金も掛かる。
といった理由から、二の足を踏んでいる経営者が多いのではないかと思います。
加えて、労働者から、「就業規則を見たことがない」、「就業規則があるのかどうか知らない」といった言葉が聞かれるほどなので、10人以上になったにも関わらず、いまだに就業規則を作成していないといった経営者も見受けられるようです。
就業規則の役割とは?
企業には、多数の労働者が集まり、企業の目的達成のために活動しています。
ですが、労働者がそれぞれ好き勝手に動いては、達成できるものも達成できなくなります。
例えば、出社時間が人によってまちまちだったり、お昼休憩がバラバラだったり、非常識な服装で働いたり・・・と少し想像してもらえば分かると思います。
従って、企業では、労働者を組織化し、職場の規律や労働条件を統一的、かつ同一的に規制、統制する必要が出てくるわけです。
そのためのツールの1つが就業規則という訳です。
(参考:「就業規則とは何か?何人から届出義務?作成する意味・目的は?3つの視点でわかりやすく説明」)
すなわち、就業規則の役割は、「労働条件の明確化と企業秩序の維持」であると言えます。
まず、労働者にとっては、就業時間、賃金、有給休暇制度などの労働条件の明確化により安心して働けるようになります。また、企業人として守るべきルール(例えば、何をすれば懲戒処分になるのか等)も分かりますので、企業側による一方的、または不利益な扱いを受けることがなくなります。
使用者にとっては、就業規則によって多数の労働者を統一的、かつ同一的に扱うことができるので、人事労務の管理に役立ちます。
特に近年は、労使間の権利・義務に関するトラブルが増加しています。
就業規則による労働条件の明確等により、こうしたトラブルの防止にも効果があると期待されています。
(参考:『【職場のトラブル】相談内容のトップは「いじめ、嫌がらせ」』)
就業規則は、一人でも労働者を雇うのであれば作成すべき
就業規則の役割については、ある程度理解して頂けたと思います。
では、本題の「就業規則はいつ作成するべきか?」についてですが、私は、「一人でも労働者を雇うのであれば就業規則を作成すべき」だと考えます。
「初めて従業員を雇うときに事前に押さえておきたい3つのポイント」でも書いていますが、欧米とは違って、日本では一度雇った労働者を簡単に解雇することは出来ません。
「解雇」という言葉で、経営者の皆さんですぐに思いつくものだと、「懲戒解雇」だと思います。
実際、「問題社員を懲戒解雇したい」といった声が経営者から多く聞こえますが、そもそも就業規則に懲戒解雇の事由を載せていなければ懲戒解雇を行うことができません。(懲戒処分も同様)
そういった準備もなく採用してしまうと、「辞めさせるのに値するだけの解雇事由があっても辞めさせられない」ということになります。
人を雇うということは毎月の給料が経費として発生し、そのまま事業の収益にも直結する訳ですから、その準備もないまま人を雇ってしまうのは非常に危険だと思いませんか?
加えて、就業規則を作成する過程で、
・労働条件や服務規律を整理し、明確化できる
・経営者の想いや守ってほしいこと、会社の方針などを就業規則に盛り込める
はじめて労働者を雇うときとは、事業を興した後、紆余曲折を経ながら、仕事量も増え収益的にも安定しつつあるタイミングだと思います。これまで一人(或いは家族)で経営を続けてきた訳ですから、労働者を雇うこのタイミングで自社の状態を省みる絶好のチャンスだと思います。
つまり、これまでワンマン、家族経営でなあなあだった部分をしっかりと規則化し、企業としてワンランクアップするチャンスだということです。
就業規則は労働者に周知された時から有効(効力を発揮する)
就業規則は「労働者に周知されたときにその効力を発揮する」とされています。
ここでいう「周知」とは、労働者が知ろうと思えば知り得る状態になっていることを言います。
例えば、労働者が就業規則をいつでも見れる状態にしておく、各職場の見易い場所に備え付ける(掲示する)など周知させる手続きをしっかりと行う必要があります。(BESTは、労働者一人一人に就業規則を配布すること)
つまり、労働基準監督官に届出をしていたとしても、「誰も就業規則の存在、内容を知らない」「就業規則を見たくても見れない(見せてもらえない)」というような状態にある就業規則は有効とは言えません。
経営者の皆さん。
もしせっかく就業規則を作成したのに、労働者が「就業規則を見たことがない」、「あるのかどうかも知らない」といった状況になっているのであればそれは大問題だと言うことを認識して下さい。せっかくお金をかけて就業規則を作ったのに何の役にも立っていないということです。
また、労働者の方のみならず、経営者の方も含めて、労働基準法など法律に明るい方は少ないと思います。
従って、就業規則の作成時や改訂時には、専門家(人事担当者や社会保険労務士など)による労働者向けの説明会を開くなど、周知徹底するようにしておくことも労使トラブルの防止に役に立ちます。
まとめ
就業規則は、労働者が10人以上働くのが常態となるまでは、法律上作成義務はありません。
確かに経営者としては、労働者という人出は欲しいが、就業規則の作成といった面倒なものは後回しにしてしまいたいという気持ちは分かります。
ですが、就業規則には、「労働条件の明確化と企業秩序の維持」という役割があります。
この記事の中でも紹介しましたが、就業規則を作成していないことで、辞めさせたい労働者がいても辞めさせられないという事態に陥ることもありますので、法律上の義務の有無にかかわらず早めに(できれば、人を雇う前に)就業規則を作成することをオススメ致します。
また、せっかく苦労して就業規則を作ったとしても、従業員が「就業規則はいつ見れるの?」なんて質問をすること自体が本来おかしなことなのです。いつでも誰でも見れるものが就業規則なのですから、しっかりとそのように従業員に周知することも忘れないで下さい。
もちろん、就業規則の作成には、我々社会保険労務士がお役に立てるということは言うまでもありません。