人出不足解消には結婚や出産、育児で退職した女性の再雇用を検討すべき
少子高齢化が進む日本では、深刻な人手不足が叫ばれています。
例えば、昔はアルバイトの定番(?)だったガソリンスタンド、居酒屋やコンビニでは求人しても、なかなか人が集まらず、時給を上げたり、アルバイト同士仲が良く、働きやすい職場であることをPRしたり、工夫を凝らすことで応募増加を狙っています。
このような人手不足の状況はアルバイトに限らず、正社員でも同様となっています。
そこで、人手不足解消の方法の1つとして提案したいのが、結婚や出産で退職した女性を再雇用することです。
これについては、大企業では結婚後も仕事を続けたり、産前産後休業、育児休業制度利用後に復職するケースが増えていることは間違いないですが、中小企業ではまだまだ道半ばかと思います。
ここからはデータ(数値)や所見をもとに、その(退職した女性の再雇用)メリットについて紹介していきます。
日本の労働力の現状
最近(2018年8月6日時点)、日本の人手不足が目に見える形で報じられたニュースとしては、外国人労働者の就労拡大の話でしょうか。
まだ、概要や経緯など検討段階の発表でしたが、深刻な人手不足を受けて、これまで外国人労働者が就労できなかった業界(分野)を規制緩和するということです。
(外国人労働者の話については、別の機会で触れたいと思いますが、日本の若者の就労機会を奪うことにならないように、十分検討が必要な案件だと思います)
さて、「人手不足、人手不足」と言われていますが、数値ではどうなっているのでしょうか?
2018年度版「中小企業白書」によれば、日本では1995年の約8,700万人をピークに、生産年齢人口(15歳から64歳)は減少傾向が続いています。
2015年には約7,700万人まで減少しており、この傾向は今後も継続すると見込まれています。
そして、2060年には4,800万人と2015年の約6割の水準まで減少すると推計されています。
25歳から34歳における女性の就労状況
そんな状況下、まず知ってもらいたいことは、過去20年における女性の年齢別の就業率の変化です。(2018年度版「中小企業白書」より)
女性/調査年 | 1997年 | 2007年 | 1997年比 | 2017年 | 2007年比 |
25歳から29歳 | 63.9% | 71.4% | +7.5% | 78.9% | +7.5% |
30歳から34歳 | 53.7% | 61.0% | +7.3% | 72.9% | +11.9% |
データから分かることは、
- (一般的に)女性の結婚や出産にあたる時期(25歳〜34歳)に、就労率が減少していることから、結婚や出産を機に退職している女性が多いということ
- 依然、(結婚などを機に退職するという)この大きな流れは変わらないものの、この20年間で25歳〜34歳における女性の就業率は上昇している
(補足:数値の上昇には、晩婚化(夫:28.5歳→31.1歳、妻:26.3歳→29.4歳。数値は、1995年→2015年)の影響もあると推察されます)
ということだと思います。
結婚・育児のために退職した女性の就職状況
2018年度版「中小企業白書」によれば、結婚・育児のために退職した女性のうち、退職後に復職して仕事に就いている人は26.0%にすぎません。
大凡四分の一しか復職していないというのが現状です。
しかしその一方で、「仕事に就いていないもののうち、60.0%は復職したい」と考えているそうですから、ここに潜在的なニーズが存在していますね。
人手不足解消には、結婚や出産、育児のために退職した女性をターゲットにするべき理由3つ
前述の結果から、経営者なら誰しも辿り着く答えだと思いますが、人手不足解消のため、結婚や出産・育児を理由に退職した人を再雇用しない手はありません。
理由(メリット)としては、次のようなことが挙げられます。
理由その1:一定の業務遂行能力が保証される
社会人経験があるということは、一定の業務遂行能力があるということです。
特に、前の会社でやっていた業務と同種の業務で採用するのであれば業務遂行能力は保証されます。
理由その2:教育コストが抑えられる
数年間の社会人経験があれば、挨拶や電話応対、社会人としてのマナーなどといった必要最低限の教育は受けているはずですから、採用後の教育コストが抑えられます。特に、中小企業であればその恩恵は大きいはずです。
理由その3:新しい風(文化、考え方)を吹き込める
やはり違う会社で働いていた方は、新しく入った会社を第三者として客観的に見ることができるので、これまで自分達では気づかなかったおかしな慣例や無駄な業務などの発見にも繋がるでしょう。
結婚や出産、育児のために退職した女性が求職時に求めているもの
Point1:実は、賃金、給料ではなく、仕事の種類・内容や勤務時間、休日などを求めている
2018年度版「中小企業白書」によれば、女性の完全失業者(注:ここでいう「完全失業者」とは、総務省「労働力調査」の定義に基づきます)が、
仕事に就けない理由としては、「希望する種類・内容の仕事がない」、「勤務時間・休日などが希望と合わない」の回答割合が高く、一方で、「賃金・給料が希望と合わない」については、「15~24 歳」を除く世代にお いては回答が 1 割に満たないのです。
ということは、賃金よりも希望の種類・内容の仕事や、勤務時間・休日を就職先に求める条件として重要視していることが推察されます。
フルタイムでは難しいものの、短時間勤務等を希望する女性が多いということが伺えます。
また、収入になる仕事に就くことを希望しながら、現在仕事を探していない理由もみていきたいと思います。
「15~24 歳」、「25~34 歳」、「35~44 歳」の世代では、やはり「出産・育児のため」が大半を占めています。
次いで、これらの世代で多いのが、「適当な仕事がありそうにない」というものです。
この「適当な仕事がありそうにない」の内訳は、「勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない」の割合が高くなっています。
これは、「仕事には就きたいものの、出産・育児が制約となり求職をしない女性が多い」ということです。
逆を言えば、こういった女性が働ける企業の需要は大きいということです。
つまり、受け入れる企業側も、短時間勤務の導入や社内の他の従業員に対し育児への理解(子供が病気の時に休みを取れるなど)を求めるなど、様々な企業努力が必要ということです。
むしろ、これからの社会では、こういった問題(出産・育児の制約)を解消できない企業は、人が集まらず生き残れなくなる可能性もあると言えます。
(おまけ)経営者は、自社の従業員が結婚や出産・育児による退職を将来の再雇用のチャンスと捉えるべし
一定数の従業員を抱える企業であれば、自社の社員が結婚や出産・育児のために退職するケースが出てくるでしょう。
そのときに、是非一声「また働きたくなったら、遠慮せずに連絡して欲しい」といったことを伝えておいて下さい。
自社で働いていた人であれば、仕事のスキル、質、性格等も把握済みですので、復職後は(多少の運転期間が必要だとしても)即戦力として期待できるはずです。
特に、優秀な人であれば、みすみす手放すのは勿体無いと思います。
そのためにも、円満退社となるのが望ましいですね。
まとめ
データ(2018年度版「中小企業白書」)から見ても、結婚や出産・育児で退職した女性が働きたいというニーズを持っていることは間違いありません。
また、企業側にも、人手不足解消のため、そのような女性達を雇用するメリットは十分にあると思います。
しかし、そのためには求職者のみならず、就職先(受け入れ側)も女性が抱える問題(出産、育児、勤務時間等)を解消できる体制づくりが必要だということを十分認識しておいて下さい。
最後に、今後の企業努力や法整備等で、結婚や出産・育児で退職した女性が少しでも働きやすい世の中になれば良いなと思います。
また、私も社会保険労務士としてその一助が出来れば幸いです。
参考HP:2018年度版「中小企業白書」