【講演会・東大発ベンチャーユーグレナ創業出雲充社長】ミドリムシで世界を救う-貧困・燃料

先日、「ユーグレナ」が健康食品の「エーザイ」(福岡市在)を買収するというニュースを見た時に、そう言えば昔「ユーグレナ」の創業者の講演会を聴いたり、創業者が書いた本(旧題:僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。)を読んだことを思い出したので、今回はその時の講演会の内容を投稿しておきます。
文庫化にあたりタイトルが改題されているようです。内容はおそらく同じだと思います(多分)。
旧:「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。」
新:「僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。」
後日、時間があれば「ミドリムシで世界を救うことに決めました。」の書評レビューの方も書こうかなと思います。
![]() | 僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。 (小学館新書) [ 出雲 充 ] 価格:858円 |

目次
貧困の原因は飢餓ではなく栄養失調
「貧困」
多くの日本人がこの言葉から想像するイメージは「満足な食事を取れていない」「いつもお腹を空かせている」と言ったものではないでしょうか。
ですが、実際、出雲充 氏が最も貧しい国と言われる「バングラディシュ」で見た風景は違ったそうです。
そこでは貧しいとは言え、毎食カレーを食べていたそうです。
同氏曰く「炭水化物、カロリーは足りている。しかし、タンパク質やビタミン、カルシウム等といった栄養バランスが足りていない。つまり、貧困と言っても、実際は飢餓ではなく、栄養失調が問題となっている」とのこと。
テレビやニュースなどで、「足が細くお腹が膨らんでいる子供」を見たことがあると思います。あれはタンパク質が足らないために腹水(お腹に水が溜まった状態)になっているそうです。
このように現代の貧困において足りないのは、カロリー(炭水化物)ではなく、タンパク質、ビタミンやカルシウムと言った栄養素だということです。
ミドリムシは59種類の栄養素を持つスーパーフード

そうした栄養不足の問題を解決する食材として注目を浴びているのが「ミドリムシ」です。
Wikipediaやユーグレナ社のHPによれば、ミドリムシは「植物」と「動物」の両方の性質を備えている原生生物です。
具体的には光合成を行う性質と鞭毛(運動のための器官)を左右に振って移動する性質を持ちます。
そして、ミドリムシの突出すべき点はビタミン、アミノ酸、ミネラル、不飽和脂肪酸など59種類の栄養素が含まれていることです。
特に成人の必須アミノ酸(9種類)がバランス良く含まれており、人間が生きていくために必要な栄養素の大半を備えています。
つまり、ミドリムシは植物が持つ栄養素と動物が持つ栄養素、両方を併せ持つことからスーパーフードと呼べる存在なのです。
世界初のミドリムシの大量培養成功は逆転の発想
ミドリムシに豊富な栄養素が含まれていることは分かった、と。
次に問題となったのはミドリムシの培養方法(増やし方)の確立でした。
従来のやり方では小さじ1杯程度のミドリムシを培養するのに1ヵ月程度かかっていたそうです。
しかも、ミドリムシの豊富な栄養素は自然界ではマイナスにも働きます。それは栄養価が高い分、他からも食べられやすいということです。
従って、従来は精密機械を作る際に用いられるクリーンルームのような環境を作り、いかにして外敵からミドリムシを守るかと言った考えで培養をしていました。
しかし、1匹でも外敵の侵入を許せば、そこから一気にミドリムシの培養環境が崩れる恐れもあります。リスクゼロを目指すとなれば、その分コストも上がりますし、そこまでしてもなお完全にリスクゼロが永続的に可能かどうかという懸念も残ります。
そうしたこともあって従来のやり方ではない方法を探す必要が出てきた訳です。
そこで新たに確立した培養方法が、ミドリムシだけが繁殖できる特殊な培養液を作ることで大量培養に繋げるというものでした。
(強い酸性下でも生きるミドリムシがいることが発見のきっかけだそうです)
つまり、これまでのミドリムシを外敵から守る環境を作るというものではなく、ミドリムシしか生存出来ない環境を作るという逆転の発想です。
同氏によれば「これまでミドリムシが天敵に食い尽くされ絶滅していないということは、自然界にはミドリムシしか繁殖出来ない環境があるはずだ」という考えがブレークスルーのきっかけとなったようです。
従来のやり方に囚われず、別の視点から考えることでブレークスルーに繋げるという、まさに見本のような出来事だと言えるでしょう。
501社目で初成約
大量培養に成功した後は、当然ビジネス化していく必要があります。
出雲充氏によれば、「当初の事業計画では100社に1社の割合で採用されると考えていたが、2007年12月までの2年間で500社に飛び込み営業を掛けたが全く実らなかった(同社は2005年創業)」とのこと。
最終的には、2008年5月に501社目の伊藤忠商事株式会社で初成約に至ったそうです。
(諦めずに挑戦することの大切さは、「459回挑戦すれば成功率は99%」のところで後述しています)
私たちからすれば、「東大発のベンチャー企業」「世界初のミドリムシの大量培養法の発見」「スーパーフードのミドリムシ」など、パワーワードのオンパレードで、注目を集めるのには十分な新進気鋭の企業のように映りますが、500社もの失敗を経てビジネス(採用・成約)に至ったという話は非常に意外でした。
誰もやっていないからチャンスだ!
では、初成約に至った伊藤忠商事株式会社と採用・成約には至らなかった他の500社との違いは何だったのでしょうか?
出雲充 氏によれば、他者(初成約までの500社)は、「誰もやっていないからダメだ。採用実績がないなら、うちでは採用できない。他者が採用したらまた来て下さい」と言われたそうです。
一方で成約に至った伊藤忠商事の担当者は「誰もやっていないからチャンスだ!」という発想で社内を熱心に説得し、初成約に至ったそうです。
講演会を視聴した当時は「ウチとはライバル商社になる関係だけど、社風が違ってチャレンジ精神があり、凄いし羨ましい部分もあるなぁ」と感心したものです。
普通の会社は「誰もやっていないからダメだ」(採用実績がないからダメだ)
良い会社は「誰もやっていないからチャンスだ」
一番にこだわること
出雲充 氏がこだわっているのは「一番であること」だそうです。
例えば、日本人に「日本で一番高い山はどこですか?」と尋ねればほぼ100%の人が「富士山(標高3,776m)」と答えるでしょう。
しかし、「日本で二番目に高い山はどこですか?」と聞かれたら答えに窮する方も多いと思います。
ちなみに正解は北岳(山梨県、標高3,193m)です。
お察しの通り、この例え話から導かれることは「一番(1位)」は多くの人に知られるけれど、「二番目(2位)」はあまり知られないということです。
実際、スポーツの世界では選手たちが口を揃えて「(決勝を前にして)準優勝ではみんなの記憶に残らないから、必ず勝って優勝したい」といったことを言いますよね。
やはり、ある分野(売上、シェア、地域、満足度等)で「一番です」「1位です」と答えられるというのは大きな影響力があります。
同氏の言葉を借りれば、「一番であれば富士山のような知名度や規模でビジネスができるが、2位以下だと北岳の知名度や規模でのビジネスになる」ということなのだと思います。
もちろん、ずっと1番であることが出来れば良いのでしょうが、個人的には一度でも一番になるという経験だけでも大きな影響力があると思います。
例えば、現在、日本で一番高い自立式鉄塔は「東京スカイツリー」ですが、スカイツリーが完成する前まで日本一であった「東京タワー」も「日本一」という冠を長い間付けていたこともあり、いまだに抜群の知名度を有しているのはご存知の通りです。
私自身も、自動車ディーラーで勤めているときに、セールスコンテスト(接客ロープレ)で九州一(チーム・個人両方)や全国一位(チーム)になったことがあります。
他者への影響力は勿論ですが、何よりも自分に自信がつくというのが大きかったように思います。一種の成功体験を持つことで、接客のみならず他の部分においても自信を持って事に当たることが出来るようになったと思います。
一番になるためには挑戦し続けること-成功率が1%であっても459回挑戦すれば成功率99%に-

では、「一番になるために何が必要か?」ということに対し、出雲充 氏は次のような話をおっしゃいました。
ある学生から『成功にはお金、才能(教育)、運が必要ですか?』と質問されたことがありますが、いずれも本当に必要なものではない。本当に必要なことは諦めずに何度もチャレンジすることだ」と思うとのこと。
そこで挑戦の大切さを説く一例として以下のような話を仰っています。
同氏曰く「例え成功率が1%であったとしても、2回目の成功率は1.99%になる。3回挑戦したら2.9701%となり、459回挑戦すると成功率は99%になる」という法則があるとのこと。
つまり、458回で挑戦を諦めてしまうと、459回目で成功する可能性(99%)を捨ててしまう訳ですから、一番になるためには何度も繰り返すということが非常に大切でやり続けた人にしか成功は得られないとも言えます。
「459回挑戦すれば成功率が99%になる(459回挑戦すれば一度は成功する)」という法則通り、(若干の誤差はありますが)501社目の伊藤忠商事で初成約に至ったということもこの法則を裏付ける根拠となりますね。
また「東大発のバイオベンチャー」「世界初のミドリムシ の大量培養」など、才能(東大卒)や運(培養方法の確立)があっても、中々身を結ばなかったというご本人の経験から導かれた言葉なので重みがあると思います。
10000回だめでかっこ悪くても 10001回目は何か変わるかもしれない
DREAMS COME TRUE」
さて、もう一つ、この話を聞いて思い出したのがDREAMS COME TRUEの「何度でも」という楽曲です。
この歌には次のような歌詞があります。
10000回だめで へとへとになっても
10001回目は 何か 変わるかもしれない・・・中略・・・
落ち込んでやる気ももう底ついて
引用:DREAMS COME TRUE「何度でも」より
がんばれない時も きみを思い出すよ
10000回だめで かっこ悪くても
10001回目は 何か 変わるかもしれない
前を向いてしがみついて胸掻きむしって
あきらめないで叫べ!
・・・中略・・・
喘ぎ嘆きながら 自分と戦ってみるよ
10000回だめで 望みなくなっても
10001回目は 来る
ちょっと唐突な振りでしたが、この「何度でも」という曲自体は恋愛ソング、失恋ソングと言った位置付けになると思いますが、紹介している歌詞の部分は失恋以外の場面にも十分応用の効くものだと思ったので紹介しておきます。
歌詞だけでなく、DREAMS COME TRUEの吉田美和さんの歌声と一緒に聞くと、きっと「もう少しだけ頑張ってみよう」という気持ちになるはずです。
他人からくだらないと言われても、自分が「いける」と思えばやる価値はある
「ミドリムシなんてくだらない」
ミドリムシの培養方法の研究から、現在のビジネスに至るまでの道のりで、おそらく何度となく出雲充 氏に浴びせられた言葉だろうと思います。
ミドリムシの大きさは平均100μm(マイクロメートル)で、食物連鎖の最下層の存在と言えるほど、か弱いものです。
ぞんざいに扱われることはあれど、ミドリムシで貧困を救える、ミドリムシでジェット機を飛ばす、とミドリムシの可能性を本気で信じて行動し続けていなければ、今のようにミドリムシが陽の目をみることはなかったでしょう。
(現在、人気芸人の「カズレーザー」さんがユーグレナの広告塔を務めていますので、ミドリムシ、ユーグレナといった言葉を一度は聞いたことがあると思います)
同氏は「くだらなくても自分がいけると思って売れた後の世界をイメージできるのであればやる価値はある」と考えていたそうですが、むしろ「(ミドリムシを)くだらないと思わないこと」こそが同氏の強さだったと思いますし、おそらく誰から何と言われようが「ミドリムシなんてくだらない」と思ったことは一度もないのだと思います。
継続の秘訣はアンカーとメンター
講演会の中で「どうしたら挑戦を継続出来るか?」という質問がありました。
それに対する回答は二つで、「メンターとアンカーを持つこと」だと答えています。
メンターとは尊敬する人や好きな人のことを指しますが、そうしたメンターを持ち、適宜支援を受けることが大切だということです。
もう一つのアンカーとは、「自分は、なぜこんなに大変なことをやっているのか」、そのきっかけとなったことを時々思い出すことでモチベーションに繋げるということのようです。
資格試験の勉強等もそうですが、何かを長く続けるには最初の頃に抱いた想いというのは非常に重要です。
つまり、「なぜ、大変な思いをすることが分かった上で、この試験を受けようと思ったのか」、その時の気持ちが途中で挫折しそうな自分を支えてれるアンカーとなります。また、家族や友人、受験仲間からの応援などはメンターに当たるでしょう。
また、一つ前に見出しの中で、「(ミドリムシがビジネス化され)売れた後の世界をイメージできるのであればやる価値はある」という言葉がありますが、資格取得後の自分や周りの環境を想像しイメージすることもモチベーション維持には効果的です。
(合格後のセルフイメージを持つこともモチベーション維持には大切)
ミドリムシの可能性
ミドリムシが59種類もの豊富な栄養素を持っていることはご紹介した通りですが、この他にもミドリムシは様々な可能性を秘めています。
例えば、株式会社ユーグレナのHPの商品・サービス欄を見て頂くと分かりますが、このミドリムシは顆粒や錠剤(サプリメント)、ドリンク、お菓子などと言った形態で販売されています。
貧困問題を解決するためにタンパク質やビタミンが必要だと言っても肉類や魚類、果物をそのままの形で輸送したり、保存するにはコストや場所、機材等が必要になります。
ですが、このような顆粒や錠剤(サプリメント)、ドリンク、お菓子と言った形態であれば、鮮度の維持や保管スペースの確保と言った問題も解決でき、世界中に行き渡らせることが可能となります。(持ち運びに優れ、鮮度と言った品質維持も楽だということ)
また、栄養素以外の要素として、ミドリムシはバスや飛行機に利用可能なバイオ燃料や家畜の肥料、培養土といった使い道もでき、様々な可能性を秘めた生き物と言えます。
ちなみに、講演会当時はミドリムシから作ったバイオ燃料を使ってANA機を飛ばすといった実証実験をやっているということを語られていました。そして、2020年に有償でのフライトを目標にしているとのことでしたが、今回のコロナ禍の影響により、まだフライトは実現していないようです。
感想
当時、結構真面目に聞いていたからか、今から5〜6年も前の講演会にも関わらず、しっかりと覚えていたことが「ミドリムシの凄さとその可能性」、それと「挑戦を諦めないことの大切さ」です。
ミドリムシが植物、動物の両方の特性を兼ね備え、しかも豊富な栄養素を持ってるということ、しかもその世界の貧困問題の解決のみならず、ミドリムシが飛行機のジェット燃料になるなど、地球のエネルギー問題の面でも貢献できると聞かされた時には、子供みたいに素直に「ミドリムシってすげー」って感動したのを覚えています(笑)。
そして、もう一つ「挑戦を諦めないことの大切さ」ですが、これは「459回挑戦すれば成功率99%になる」の法則のことです。
まず、「成功率1%」と聞くと、100回挑戦して成功するのは1回というイメージを持つのが普通ではないでしょうか。
だから、そんな成功するかどうかも分からない、奇跡みたいな確率に賭けるのは厳しいと誰もが感じ、挑戦に二の足を踏む訳です。
ですが、ここで紹介した「459回挑戦すれば成功する確率99%」の法則は次のように考えます。(数字が苦手な方でも分かるように少し詳しく説明します)
成功率1%とは、逆に言えば失敗する確率は99%ということです。
しかし、一度失敗したことをもう一度挑戦した場合には「99%(一度目の失敗確率)×99%(2回目も失敗する確立)=98.01%」となります。これは「二回挑戦すると一度は成功する確率が1.99%(*1-0.9801)、二回連続で失敗する確率が98.01%」ということを意味している訳です。
この考えを元に挑戦する回数を3回、4回と繰り返していくと、50回の挑戦で成功率約40%、100回の挑戦で成功率約63%、200回の挑戦で成功する確率約86.6%、458回の挑戦で約98.99%、そして459回挑戦してその中で一度は成功する確率が99%(逆に言えば459回連続で失敗する確率は1%)ということになります。
この法則は、諦めずに挑戦を続けた先にしか成功はないということを示唆するとともに、成功率1%だから100回すれば一度は成功するという甘い幻想も打ち砕くものでもあります。
0.99×0.99×0.99=0.970299
・3回挑戦して1度は成功する確率 2.9701%
・3回連続で失敗する確率 97.0299%
【100回の場合(0.99を100回掛ける(0.99の100乗)、以下同)】
0.99×0.99・・・・×0.99=0.366032
・100回挑戦して1度は成功する確率 63.3968%
・100回連続で失敗する確率 36.6032%
【200回の場合】
・200回挑戦して1度は成功する確率 86.602%
・200回連続で失敗する確率 13.3980%
【400回の場合】
・400回挑戦して1度は成功する確率 98.2049%
・400回連続で失敗する確率 1.7951%
【458回の場合】
・458回挑戦して1度は成功する確率 98.9979%
・458回連続で失敗する確率 1.0021%
【459回の場合】
・459回挑戦して1度は成功する確率 99.0079%
・459回連続で失敗する確率 0.9921%
まとめ
以上、2014年頃に行われた東大発のバイオベンチャー・株式会社ユーグレナの創業者である出雲充 氏の講演会の内容をまとめてみました。
何分、数年前のメモと記憶を元に書いた内容です。一部実際の講演内容と異なる部分や聞き違えている部分もあると思いますので、その点何卒ご了承下さい。
・貧困の原因は飢餓ではなく栄養失調
・ミドリムシは59種類の栄養素を持つスーパーフードであり、ジェット燃料や家畜の肥料にも使える
・常識に囚われない、逆転の発想が大事
・「誰もやってないからダメ」ではなく、「誰もやっていないからチャンスだ」と思え
・一番にこだわる
・例え成功率が1%であっても、459回挑戦すれば(そのうち一度は)成功する確率は99%
・他者から「くだらない」と思われることでも、自分が価値があると思えばそれで良い
・何かを継続するためにはメンターとアンカーを持つことが大事